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1 / どんな発表か
どんな発表か
TypeSafe AI という会社が、System One Models という新しい種類のモデルと、その最初の公開モデル Jev を発表しました。Jev は 2026-09-15 から早期アクセス(ウェイトリスト制)で使えます。
書いたのは創業者の Diogo Almeida さんです。OpenAI で、ChatGPT の元になった「指示に従い、人と会話する」ための手法づくりに関わっていたと書かれています。会社は 2 年間非公開で開発していました。
イメージ図。数字は説明用の例で、実際の API の形とは違います
記事の言い方では「構造のない状態を入れると、型のついた確率つきの判断が返る関数呼び出し」です。文章を生成する機能はありません。
2 / 背景
チャット用の LLM が自動化に向かない理由
記事は「モデルは何年も前から会話では人間以上なのに、自動化が進まないのはなぜか」という問いから始まります。答えとして挙げているのは、LLM が人に読ませる文章を出すように訓練されていることです。
出力が文字列
パースと検証が要る
文字列は何でも入ります。コードから使うには毎回パースして確かめる必要があり、型の合わない値や、存在しないツール呼び出しが返ることもあります。
遅い
1 回 3〜329 秒
人と話すには十分ですが、コードの中で何度も呼ぶと、そこが待ち時間の大部分になります。
自信の度合い
確信度が当てにならない
確信度を聞いても、高めに答えがちで、ばらつきもあります。
3 つ目について、記事は次のように書いています。95% の確率でこなせる仕事でも、残り 5% に当たったときにそう言えないなら、その仕事は自動化できない。
チャットには向く性質が、プログラムの部品として使うときには邪魔になる、というのが記事の主張です。
3 / しくみ
Jev の出力のしくみ
TypeSafe は、自動化だけを目的に、モデルの構造・出力のしかた・学習方法を新しく作ったと書いています。
これまでの LLM
1 トークンずつ順に書く
何でも書けますが、長いほど時間がかかり、途中で形が崩れることもあります。
Jev
全部の答えを 1 回で同時に出す
答えの形は先に決まっているので、型の合わない値は返りません。どの答えにも確率と確信度がつきます。
入力
テキストなどの構造のないデータ。LLM が「会話のやりとり」を中心にするのに対し、Jev は「プログラムの今の状態」を中心にします。
出力
あらかじめ決めた形の値と、確率・確信度。文字列の生成はやめています。
出し方
並列。1 回の問い合わせで全部の出力を出し、ハードウェアを意識して効率よく動かす、と書かれています。
学習方法
RLCD(Reinforcement Learning for Calibrated Decisions)。「確率が正直な判断」を目標にする強化学習です。
学習方法を新しくした理由も書かれています。RLHF は「人の評価者が好む文章」を目標にしていて、チャットには合っていても自動化には合わない。RLVR はプログラムで正解を確かめられる仕事には向くが、現実の判断の多くはそういう形をしていない、という説明です。
ここでいう「確率が正直」(calibrated)とは、確信度 90% と言った答えが、実際に 9 割ほど当たるという性質のことです。記事は「確信度が高いほど正解率も高い」「似た入力には似た答えを返す」と書いています。
4 / 数字
速さと値段
記事の比較表の数字を、目盛りを 10 倍ごとにとった図にしました。
記事の比較表より。LLM の応答時間は「フロンティアモデル」の値
速さ
System One 向きの問い合わせでは、同じくらいの賢さの LLM より 40〜200 倍速いとしています。
値段
入力が 100 万トークンあたり $0.042(10 億トークンで $42)。出力は「安すぎて測らない」ので無料です。
ワークフロー評価
トップページにある「193.6 倍速く、444.6 倍安い」は、6 章のワークフロー評価から出た数字です。記事自身が「実際の効果の中では高いほうだと思う」と書いています。
100ms 前後なら、画面の操作に合わせて AI の判断を挟める、と記事は書いています。
5 / 使いどころ
向いている仕事、向いていない仕事
記事は LLM を置き換えるものとしてではなく、得意な場所が違うものとして並べています。
LLM が向く
自由さが要る仕事
人が見ている仕事: チャットボット、コパイロット、コーディングエージェント。自由に書ける反面、脱線するので人の監督が要ります。
機械で正解を確かめられる仕事: 数学の証明、カーネルの最適化。作って、試して、直すを繰り返せます。
デモ: ときどき動く試作をすぐ作れます。
Jev が向く
決まった形の判断を大量に、速く
AI を使ったワークフロー: 分類、振り分け、点数づけ、抽出、分岐。手書きの条件では壊れやすいところに使う「賢い if 文」です。
大きなデータの map-reduce: 大量のデータを特徴量や知見に変えます。
リアルタイムのアプリと、LLM のプロンプト・推論・出力の採点、判定、ガードレール、ジェイルブレイク検出。
「賢い if 文」の使い方のイメージ(この例は解説用に作ったもので、記事にはありません)
記事によると、実際に安定して動くワークフローは、独立した小さな質問をたくさん並べ、はい/いいえではなく確率を見て細かく動きを変える形が多いそうです。周りのコードが AI の自由を制限するので、全体として信頼できる仕組みにしやすい、という考え方です。
6 / 証拠
記事が出している証拠と、その注意書き
記事は「すごい主張にはすごい証拠が要る」として、結果ごとに注意書き(Nuance)をつけています。この章ではその両方を並べます。
1
並べて比べるデモ
同じ問い合わせを Jev と GPT-5.6 Terra(標準の推論設定)に投げ、Jev が確率を全部同時に出す様子を見せています。答えが違ったのは「解約しそうな度合い」の 1 項目だけでした。
注意書き: 問い合わせは大きく単純化してあり、入力も短い段落です。入力が短いことは Jev に有利だと記事自身が書いています。
2
ワークフロー評価
コードで書いたワークフローを全モデルに同じように渡し、GPT-6 Astra と Fable 5.1 という大きなモデルの答えの平均と、どれだけ一致するかを測ります。Jev は約 2 桁の範囲で、速さ・値段と正確さの組み合わせが最もよい位置(パレート最適)にいたとしています。公開したワークフローは 4 つで、詳細は別サイトにあります。
注意書き: ワークフローは自社のモデル能力チームのメンバーが作ったので偏りがありうる。基準が OpenAI と Anthropic のモデルなので、それらに近い答えが有利。LLM 側は、確率つきの答えを出させる自社のラッパー経由で動かしていて、そのぶん遅く高くなる。
3
ハルシネーションと型の誤り
LLM の型の誤りやハルシネーションの割合と並べ、Jev を 0% としています。
注意書き: Jev の 0% は測った値ではなく、スキーマに合うことが保証されているので 0 と書いたものです。LLM の数字は OpenRouter のもので、難しい問い合わせほど強いモデルに回されている可能性があります。
すぐ確かめられる主張
速さ(ただし計測は米国西海岸の社員のノート PC から。サービスも西海岸にある)、値段(赤字覚悟の値段でないことは証明できず、長く続けて示すしかないとしています)、型の誤りがないこと。
公開ベンチマーク
あえて出していません。公開ベンチマークは重視せず、利用者が自分の用途で評価を作ることを勧めています。
学習データ
すべて自社で作ったと書かれています。利用者のデータでは学習しないそうです。
小さい LLM なのか
FAQ の答えは「小さくもないし、LLM でもない」です。モデルの中身の詳しい説明はありません。
7 / デモと名前
デモと、名前の由来
デモ 1
Doom を遊ばせる
1 秒に 10 回問い合わせて、1 時間あたり約 $7 です。ただし入力は画面の画像ではなく、ゲームの状態をテキストで表したデータです。AI を使わないボットのほうが上手に遊べるが、状態の表し方が変わっても反応し、指示に従うボットを作りたかった、と書かれています。
デモ 2
Wikiracing
Wikipedia のあるページから、リンクだけをたどって目的のページに着くゲームです。1 歩ごとに数百〜数千のリンクから選びます。比べた LLM は推論なしの設定(Astra だけは最低の推論設定)で、Jev のほうが少ない手数で着くことが多かったそうです。
選択肢の数
1 回で選べるのは 255 個まで
それより多いときは、各リンクを別々に点数づけしてから選ぶ 2 段階にしていて、そのぶん遅くなることがあります。
「System 1 の思考」には間違えやすいという含みもありますが、TypeSafe は System One Models のほうがほかの方式より信頼性を高くできると考えていて、理由は今後説明するとしています。
8 / 読むときの注意
読むときに気をつけること
記事の数字はすべて TypeSafe 自身が測ったもので、公開ベンチマークや第三者の評価はまだありません。ここからは、記事の内容を読んだうえでの補足です。
「ハルシネーションしない」の意味
形は保証、中身は確率
保証されているのは、決めた選択肢と型の外の値を返さないことです。選んだ選択肢が正しいかどうかは確率の問題で、そのために確信度がついています。
文章は書けない
要約や返信文には使えない
文字列の生成を手放しているので、答えは選択肢や決めた形の値に限られます。
まだ早期アクセス
値段や性能は変わりうる
値段は下げていく予定としていますが、続けられる値段かは今後次第だと記事自身が書いています。
30 歳のエンジニアにとっての使いどころは、たとえば次のような場所です。
置き換えを考える場所
LLM に JSON を返させ、パースに失敗したらリトライしている分類・振り分け・点数づけの処理。
新しくできそうなこと
これまで遅さや値段で諦めていた、全件への AI 判定や、画面操作に合わせた判定。
試し方
記事の勧めどおり、自分の用途のデータで小さな評価を作り、今使っている LLM の答えと比べる。
「LLM に選択肢を選ばせているだけ」の処理が手元にあるなら、速さ・値段・確信度の 3 点で比べてみる価値がある発表です。
9 / まとめ
まとめ
1
Jev は、文章を書かずに、先に決めた選択肢から確率つきで選ぶモデル
TypeSafe AI の System One Models の最初の公開モデルで、2026-09-15 から早期アクセスです。
2
全部の答えを 1 回で並列に出すので、速くて安い
応答は 70〜500ms、入力は 100 万トークンあたり $0.042、出力は無料。型の合わない値は返りません。
3
コードの中の「賢い if 文」向け。数字は自社評価なので、自分の用途で試して判断する
記事は評価ごとに偏りの可能性を書いていて、公開ベンチマークはあえて出していません。
出典と用語メモ
用語メモ / 型安全=返る値の形と種類が決まっていて、それ以外が来ないこと。ハルシネーション=AI が事実でない内容や、存在しないものを出力すること。RLHF=人の評価をもとにした強化学習。RLVR=プログラムで正解を確かめられる報酬を使う強化学習。キャリブレーション=モデルが言う確率と、実際に当たる割合が一致していること。パレート最適=ある指標をよくすると別の指標が悪くなる、という境目にいる状態。ガードレール=AI の入出力を検査して、危ないものを止める仕組み。ジェイルブレイク=AI の安全対策をすり抜けようとするプロンプト。
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